本研究では、分子自体の構造に起因する複雑性の少ない系において、液体、過冷却液体からガラス状態の低温に至る広い温度領域にわたって、主要な緩和過程、ボソンピークの挙動を広帯域分光法により正確に捕え、それに基き既存の理論との比較検討を通して、液体ガラス転移のダイナミクスの本質に迫るとともに、微視的立場からボソンピークの起源を解明することを目的として行った。 ガラス転移のダイナミクスの研究では、α-緩和および遅いβ-緩和は、現有の時間領域反射法と広帯域インピーダンスアナライザーを用いた10mHzから10GHzの周波数範囲において誘電率の温度依存性を測定した。これらの緩和モードとその動きに対応したクラスターのサイズやクラスター間の相互作用をについての知見をえるために、試料としては分子量のことなる低級アルコールならびにその水酸基を重水素置換した試料を用いて、各緩和モードが分子量や分子形状のにどのように依存するかをしらべた。その結果、分子量依存性は自由体積理論により理解できるが、分子の形状に起因した効果については現在解析中である。 また、ガラス状態の物質のついて普遍的に見られる低エネルギー励起状態であるボソンピークについては、細かく組成を振ったアルカリホウ酸塩ガラスについてラマン散乱法によって詳細に調べた。その結果、アルカリ金属の種類によらずボソンピーク振動数の自乗とずれ弾性率の間には線形な関係が成り立つことを見い出した。この関係よりボソンピークをあたえる局在振動の起こるクラスターサイズについての考察を行った。
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