本研究課題の目的は、イオン性ゲルにおける最も基本的な量である、ゲル内外の平衡電位および対イオン(可動イオン)の空間分布を、実験・理論の両面から追求する事であり、本年度の研究実施計画は、ゲル内の電位分布と対イオン濃度の分布を決定することであった。以下、それらにつき、研究の進行状況を述べる。 1) 電位分布の測定: 倒立型顕微鏡、ガラスピペット電極、マニピュレータ、及びエレクトロメータを組み合わせて、ゲルの局所的電位測定装置を構成した。現在、装置の調整中であるが、近日中に測定に取りかかれる見込みである。特に、表面層と内部での電位の差、および内部での電位不均一性に注目して、測定を行う。 2) 局部的pHによる対イオン濃度の空間分布の決定: 予備測定としての微少pH電極(電極部0.1mm)を用いたpH測定を行った。その結果、20mMのアクリル酸を含むN-Isopropylacrylamide(NIPA)ゲル(総濃度700mM)で、表面から内部への電位勾配が観測できた。この方法では0.1mm以下の分解能は得られないが、このようなスケールでも電位分布が観測されることは、表面層がかなり厚いものであることを示唆する。今後は、pH感受性色素を用いる方法で、より詳細な測定を行う予定である。 3)イオン性ゲルにおける構造形成: 正及び負のイオン性基を等量づつ含むNIPAゲルの熱測定において、体積相転移が、2段階で起こることが見いだされた。体積相転移が、近接した温度での逐次転移として起こることは、従来知られていない初めての現象であり、網目の中に特殊な構造が形成されていることを示唆する、非常に興味深い結果である。今後は熱測定、膨潤測定、弾性率、電位分布などから、新しい内部構造の解明を行う予定である。
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