研究概要 |
1998年度は以下のような研究を行い,その成果は学会で発表され,また来年度中に論文として発表予定である。[1]三瓶山における溶岩と火山砕屑物について全岩主・微量成分,火山ガラスと鉱物の主成分とSr-Nd同位体比,及び有機物の分析を行った。その結果,次の諸点が明らかとなった。1,2期と3-6期のマグマは起源が異なるものである。3期以降のマグマはスラブ融解によって生成された可能性が高い。そのマグマは揮発性物質のうち,特に塩素に富むものであり,また黒雲母は有機物を多く含む。流紋デイサイト-デイサイトは流紋岩質メルトと安山岩由来の結晶を適度に混合することによって生成されうる。[2]三瓶山の完新世溶岩ドームや火砕流堆積物について古地磁気学的研究を行った。古地磁気測定には本科学研究費で購入した古地磁気測定システムが使用された。古地磁気方位から男三瓶山溶岩ドームの年代は3700-3800年前と推定され,また4つのデイサイト溶岩ドーム群が異なった時期に形成されたという結果は得られなかった。太平山火砕流堆積物の定置温度が熱残留磁化から推定された。自己反転熱残留磁性鉱物が火砕流堆積物中のデイサイト岩片から発見された(日本で2例目)。[3]電気炉を用いて岩片を少量含む火山灰を加熱し,温度既知の条件下で炭化木片を作成し,それらのH/C比の温度と時間に対する依存性を検討した。その結果,炭化木片は材質にかかわらず,H/C比と温度,時間の間には明瞭な相関が見られ,火砕流堆積物の定置温度の見積りに適用できることが明らかとなった。また火砕流堆積物中の天然炭化木片のH/C比からの見積りは,熱残留磁化測定の結果と調和的である。[4]珪長質火成岩類の黒雲母中に炭化水素側鎖をもつ高分子有機物が存在することが明らかとなった。特にその含有量はSタイプ花崗岩やアダカイトの可能性がある三瓶山デイサイトで多く,Iタイプ-チタン鉄鉱系列ではそれよりやや少なく,磁鉄鉱系列では少ないかあるいは検出されない。これらの有機物はマグマの発生時に堆積岩からもたらされたか,あるいはマグマの上昇過程でトラップされた可能性が高い。この研究はしばしば爆発的噴火を伴う珪長質マグマの発生過程や上昇過程における堆積物の関与や揮発性物質の起源を考える上で重要である。
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