研究概要 |
本年度は,相模湾東部の油壺付近から採集した現生ニッポンウミシダ(Oxycomanthus japonica)の発達段階での骨格形成の観察と,化石ウミュリ類の萼との比較研究を行い,以下の結果を得た.このニッポンウミシダは1997年度に産卵,受精し,その後,油壺の東京大学臨海実験所で後期ペンタクリノイドの段階までの飼育に成功したもので,様々な発達段階の標本を使用した. 1) 初期ペンタクリノイド段階(受精後11日目)では,Basals,oralsが各5枚づつの輪をつくり,萼を形成した.一部のペンタクリノイド段階から従来報告されていた,肛門板(Anal plate)は観察されなかった.この結果は,肛門板の有無が関節亜綱の中で一定した形質ではなく,種類によりこれを持つ種と持たない種に分けられることを示唆し,肛門板が果たして重要な分類形質になりうるかどうかの検討が必要なことを示している. 2) ペンタクリノイド段階でも,茎板の増加が起こり,新たな茎板が萼の直下で行われること,また茎板同士の関節は,現生のチヒロウミユリ類と同様,synarthry(靭関節)であることが明らかになった. 3) 腕の分岐は,受精後39日目のペンタクリノイド段階で初めて観察された.腕の第一次分岐は末端成長と共に分岐腕板が作られることにより行われることが観察された. また,この結果を9月にミラノで行われた国際会議で発表し,その成果を知らしめることができたと同時に,海外の研究者から新たなデータの提供をいただき,今後の本研究の展開の上で重要な指針を得ることができた.
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