研究概要 |
神奈川県三浦市油壷でニッポンウミシダの発生,成長の実験を行い,骨格形成を走査型電子顕微鏡で観察した.また,石川県能登島に生息するトゲバネウミシダ,トラフウミシダの幼生も観察した.ウミシダ類は棘皮動物ウミユリ類に属し,幼少期にはウミユリと同様茎を有するが,成長に伴い茎を自切し,自由生活に入る. 1.ニッポンウミシダのペンタクリノイド段階において,萼を形成する骨板の中に肛門板(anal plate)を初めて確認した.肛門板は,従来広中亜綱のウミシダからは報告されていたが,今回初めて狭中亜綱のウミシダ類からも発見された.多くの研究者が古生代のウミユリに特有な形質と考えているが,現生のウミシダ類の幼体にもおそらく広く見られる形質と思われるので,中生代以降の有関節亜綱を特徴づける形質として用いることはふさわしくないと考えられる. 2.ニッポンウミシダ,トゲバネウミシダ,トラフウミシダのペンタクリノイドの茎はいずれもsynarthryの靭関節を有する.ゴカクウミユリ科の幼体の茎にもこのタイプの関節が見られることから,synarthryはおそらく有関節類を特徴づける形質の一つであると考えられる. 3.有関節類に属すると考えられるウミユリが最近古生代から続々と報告されている.これらはその萼に肛門板を欠き,その形態は中生代以降の有関節類と似ている.しかし,古生代のものの腕の関節には多くの靭関節があり,筋関節は半数程度である.中生代以降の有関節類の多くは靭関節を特定の部分に少数持ち,腕の自切のために使う機能が備わっている.古生代の「有関節類」が持つ多くの靭関節はおそらく自切の機能を持たなかったと思われる.この点から考えると,古生代から中生代にかけて腕の関節と機能において大きな変化が存在したことが推測される.
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