本研究では、火星隕石の岩石学的・鉱物学的研究を行うが、特に沈積岩質の火星隕石中の主要鉱物(オリビンと輝石)に取り込まれている小さなマグマ包有物に着目して、その化学組成や鉱物組成を調べ、親マグマの化学組成を推定し、火星隕石の互いの成因関係を明らかにする事を主要な目的とする。 平成10年度においては、沈積岩質火星隕石(ALH77005隕石、及びYamato793605隕石)について、詳細な岩石学的・鉱物学的研究を行った。特に、オリビンや輝石中のマグマ包有物の観察を充分に行った。化学組成分析装置として、茨城大学のX線マイクロアナライザーを用いて、各隕石について2000点以上の化学分析を行った。平成10年度に購入した蒸着装置を用いて、X線マイクロアナライザー用の試料とするため、予め、隕石試料に炭素またはアルミニウム蒸着を行った。 沈積岩質火星隕石では、輝石やクローム鉄鉱の化学的累帯構造を詳細に調べ、その結晶作用を研究した。また、斜長石(現在はマスケリナイト又は斜長石ガラス)の化学的累帯構造も調べ、その結晶作用と衝撃作用を研究した。副次的鉱物として産する硫化鉱物、リン酸塩鉱物、炭酸塩鉱物、酸化鉱物などについても研究した。特に炭酸塩鉱物は、火星隕石中では、斜長石ガラスを置換して産する場合や、脈状に産する場合など、その産状は複雑であり、詳細な研究を行った。 ALH77005隕石の研究成果については、国際隕石学会の学会誌である「Meteoritics & Planetary Science」に掲載された。この研究では、オリビン中のマグマ包有物と輝石中のマグマ包有物には大きな相違があることが判明した。オリビン中のマグマ包有物は、マグマの結晶作用の初期にオリビン中に取り込まれメルト包有物がさらにオリビンを析出したものであり、ライオライト的ガラスを含んでいた。一方、輝石中のマグマ包有物は、マグマの結晶作用の後期に輝石中に取り込まれたメルト包有物であり、トラカイト的ガラスや角閃石などを含んでいた。本論文では、オリビン中と輝石中のマグマ包有物の違いについて、火星表層部での急激な結晶作用で説明できることを示した。
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