本研究では、火星隕石の岩石学的・鉱物学的研究を行っており、特に沈積岩質の火星隕石中の主要鉱物(オリビンと輝石)に取り込まれている小さなマグマ包有物に着目して、その化学組成や鉱物組成を調ベ、親マグマの化学組成を推定し、火星隕石の互いの成因関係を明らかにする事を主要な目的としている。 本年度は、沈積岩質火星隕石(ALH77005隕石、Yamato793605隕石)について、詳細な岩石学的・鉱物学的研究を行った。特に、オリビンや輝石中のマグマ包有物の観察を充分に行った。この結果、2つの隕石中のマグマ包有物中には角閃石が存在していることが判明した。しかし、Yamato793605隕石中では、角閃石が衝撃によりかなり破壊されており、火星を脱出する際の衝撃が強烈であったことを示している。沈積岩質火星隕石に角閃石が存在する事実は、マグマが水成分を含んでいたことを示しており、火星におけるマグマ活動の状況を推測させるものである。最近、ポリミクト・ユレイライト隕石中にもマグマ包有物が存在し、同様に角閃石が存在する可能性があることを本研究代表者が発見した。このため、火星のマグマ活動とユレイライト母天体のマグマ活動に関し、比較検討を鋭意行っている。また、斜長石(現在はマスケリナイト又は斜長石ガラス)の化学的累帯構造も調べ、その結晶作用と衝撃作用を研究している。副次的鉱物として産する硫化鉱物、リン酸塩鉱物、炭酸塩鉱物、酸化鉱物などについても研究している。特に炭酸塩鉱物は、火星隕石中では、斜長石ガラスを置換して産する場合や、脈状に産する場合など、その産状は複雑であり、詳細な研究が必要である。
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