本研究では、火星隅石の岩石学的・鉱物学的研究を行った。特に火星阻石中の主要鉱物(数mmの班晶状のオリビンや輝石)に取り込まれている10〜100μm程度の小さな「マグマ包有物」に着目して、その化学組成や鉱物組成を調べ、親マグマの化学組成を推定し、火星隕石の互いの成因関係を明らかにする事を主要な目的とした。2つの沈積岩的火星隕石(ALH77005隕石やY-793605隕石)では、多少異なった岩相を示すが鉱物組み合せは同一であり、基本的には、共に、シャーゴッタイト隕石に類似した化学組成を持つ「玄武岩質親マグマ」より沈積した鉱物から形成されたことが分かった。なお、これらの隕石では、オリビン中のマグマ包有物と輝石中のマグマ包有物に相違が存在することが発見され、その相違はマグマの結晶分化作用の分別度に対応することが明らかになった。更に、これらの沈積岩的阻石中のマグマ包有物には、含水鉱物である角閃石(ケルスータイト)が発見されたが、共生するマグマの水蒸気圧は1000気圧よりかなり低かったことが判明した。これは、これらの隕石が、火星の地表近く(深さ数キロ以内)のマグマ溜りにおいて沈積岩として形成されたことを意味する。また、マグマ包有物中のガラスを検討した結果、これらの隕石の形成時に、マグマ混成作用が存在することが推定された。玄武岩的火星隕石(DaG735隕石、Dhofar378隕石など)中に存在するマグマ包有物では、沈積岩的火星阻石中のマグマ包有物と異なり、角閃石が存在せず、非平衡状態における複雑な結晶分化過程を示している。即ち、マグマ包有物中において、同一の結晶粒に存在する場合においても、マグマ包有物の鉱物組み合せに変化がある。これは、結晶中の粒子において、その局部の冷却速度に微妙な違いがあり、それに対応して極めて微妙な核形成と結晶成長が生じた事が原因である。以上の成果により、火星のマグマ活動の詳細がかなり判明した。
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