研究概要 |
堆積物に残された過去の生物活動を記録する有機化学的な分子指標は,バイオマーカーと呼ばれる。本研究は,従来主眼が置かれていた有機溶媒抽出物(ビチュメン)と並行して,堆積有機物の大部分を占める高分子様有機物(ケロジェン)から,オフライン熱分解(Fukushima,1982)によって生じる熱分解生成物中に新たなバイオマーカーを見いだすことを目的としている。平成10年度の研究においては,本研究費で購入したガスクロマトグラフ-質量分析計を立ち上げ, 1. 特異的な現生生物試料である,高温の温泉(熱水)中に繁茂する藻類群集,いわゆるバイオマットからの新たなバイオマーカーの検索を試みた。複数の試料を分析した結果,ビチュメンにおいては,国外の温泉での研究により注目されているメチル側鎖を1-2個持つ炭素数17から19の鎖状炭化水素が卓越することを確認し,それらの組成が温泉ごとに異なる特徴を示すことを明らかにした。この成果は投稿中である。また抽出残さの熱分解生成物より分離された炭化水素には,溶媒抽出物中には殆ど検出されない高分子量の直鎖およびステロイド,ホパノイド骨格を持つ環式化合物が見いだされた。それらの組成も試料ごとに共通点と相違点が認められた。現在,この環式炭化水素の同定を進めているところである。また来年度は,沖縄トラフ海底熱水口近傍から得られた堆積物にも適用する予定である。 2. 本邦中新世海洋堆積物(寺泊層)において,先にタービダイトのバイオマーカーとして提案した(藤田ほか,1997),ビチュメンおよびケロジェンの熱分解生成物中の炭化水素が示す特性を,その上部層である椎谷層においても確認することを目的として,ビチュメンの分析を実施し,バイオマーカーが鋭敏な指標であることを示した(藤田ほか,1998)。本試料から分離したケロジェンの熱分解分析は逐次実施する予定である。
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