研究概要 |
本研究は,2つの課題を立てて進められた。ひとつは,表題に示された堆積物の有機溶媒抽出残さを申請者らが考案したオフライン熱分解装置で分解分析することによって,溶媒抽出では得られないバイオマーカーを検索し,実際の試料に適用して堆積相解析や古環境解析の可能性を探ることである。この課題では,米国Green River頁岩を使って熱分解条件を検討し,この熱分解法をわが国の石油母岩として知られる中新世の沿岸域堆積岩から分離したケロジェン試料に適用して生成物の特徴を解析した。また申請者らがもうひとつの課題として研究対象としている,現生の海洋・湖沼堆積物や特異的な環境下(酸性条件,高熱水条件など)に生息する生物試料(algal mats)を分析対象として,抽出操作や残さの熱分解によって新たな分子情報を内包するバイオマーカーの検索を試みた。いずれの課題においても,本研究費で購入したガスクロマトグラフ-質量分析計を用い,主として注目した化合物は,鎖状炭化水素,環状炭化水素,脂肪酸である。これらの有力なバイオマーカーは,オフライン熱分解でGC,GC-MSでの分析に先立って予備的分画操作を施すことにより,いずれも詳細に分析できることがわかった。このうち幅広くバイオマーカーとして研究されている熱分解生成物中の脂環式炭化水素(ステラン/ステレン,トリテルパン/トリテルペン)で興味深いことは,現生堆積物(沿岸海域・淡水湖沼),中新世海生堆積岩,温泉藻類ごとにそれぞれきわめて類似した熱分解生成物のプロファイルを示し,それがカテゴリ間では明瞭に異なることであった。
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