本研究では、1)光誘起水素原子移動サイクル(過渡的ホトクロミズム)と二重結合の光環化、光異性化(通常のホトクロミズム)が併発する系で水素結合場を利用した新たなホトクロミズム系への展開、2)分子内水素結合による超高速の光誘起水素原子移動や分子間水素結合による分子認識機能や超分子生成能を有する多重光機能性水素結合系の構築、3)過渡的に生じる互変異性体からの蛍光の波長並びに効率の制御の研究を行った。実際に種々の水素結合系分子の合成とその光反応をレーザー分光法による過渡種の観測等の実験を通して研究した結果を以下に述べる。 例えば、インジゴ類似の化合物1について、可視光による異性化とインジゴの光安定性との関連で研究を進めた。1aのシス体は光を照射するとトランス体に異性化を起こすがトランス体は紫外光ではほとんど異性化が観測されない。しかし、長波長光を照射するとシス体への異性化が観測された。また、サリチル酸メチル2は、励起三重項状態で断熱的な水素原子移動を起すことをレーザー分光により水素移動のポテンシャル曲面を決定し明らかにした。さらに、2'-ヒドロキシカルコン3は、励起状態で断熱的な水素原子移動を起し、また、その結果、励起三重項状態において二重結合部位の断熱的なシス-トランス異性化を起すことを明らかにした。OHを有しない母体のカルコンは相互に異性化することと比較して3は励起状態における水素移動が反応の方向を制御する点が特徴的である。励起三重項状態における挙動に関して、シッフ塩基であるサリチリデンアニリン4も励起三重項状態において断熱的な水素原子移動を起こすことを明らかにした。以上の様に、幾つかの水素結合系で水素結合による光反応制御が可能なことと、三重項励起状態において断熱的な水素原子移動が起こり、特徴的な光化学挙動を引き起こすことを明らかにした。
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