本研究では、二重結合部位と水素結合部位による多重ホトクロミズム系の開拓、また、可視、近赤外光の広範囲な光で応答可能な高蛍光性分子系の創製を行った。そのため、各種の分子内水素結合を有するオレフィンの合成、レーザー分光等による光反応のダイナミクスとそのポテンシャル曲面の決定を行い、光誘起水素移動と光異性化の共同効果とそれらの反応相互間の制御機構を分子の構造因子と関連させて明かにした。さらに、分子間水素結合を活用した高効率エネルギー移動系や電子移動系を構築した。 一連の分子内水素結合を有する二重結合系を合成し、励起一重項における分子内水素移動と異性化の制御の観点から研究を行った。その結果、例えば、水素結合を有するcis体は励起一重項状態で断熱的な水素原子移動を起こし互変異性体を生成し、過渡的なホトクロミズム現象を示した。また2'-ヒドロキシカルコンやサリチリデンアニリンにおいて励起三重項における断熱的な水素原子移動が起こることを見い出し、それにより引き起こされる片道異性化や長寿命三重項の観測に成功した。また、分子内水素結合を活用した新たなホトクロミズム分子系を発見した。 分子間水素移動に関しては、DNAの核酸塩基の突然変異との関連でプリン誘導体の互変異性化の可能性を検討し、ピロリルエテニル基を導入した化合物で、分子内水素結合による互変異性化が観測された。また、アザインドール誘導体を合成し、分子間水素結合と光異性化に関しても検討した。さらに、分子間水素結合部位で発色団を連結した化合物としてウレイドピリミドン骨格やピリドン骨格の4重水素結合系調製を行い、電子移動やエネルギー移動を高効率で達成できることを見い出し、また、蛍光性ポリマー創製の基礎を明らかにした。
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