本研究者は、超臨界流体中のクラスター生成に伴う分子分布の不均一度に着目し、「密度ゆらぎ」(空間的分子分布の不均一度の定量的表現)と相関距離(分子分布の距離的表現)をX線回折法にて求めてきた。その結果、超臨界流体の構造表現においては「密度ゆらぎ」という物理量が最も基本的であり、密度ゆらぎの等高線を相図上に描いた場合「尾根線」が存在し、この尾根線上で溶解度の変化率が最大になり、反応の特異点もこの尾根上にあることを明かにしてきた。これまでの結果をふまえ、超臨界流体の静的な構造とゆらぎ、および動的構造を解明することを目的とし、以下に示すようなテーマ設定のもと実験を行い結果を得た。 1)超臨界流体の分子分布の不均一性を表す「ゆらぎ」の普遍性について。 C0_2とCF_3Hを試料として、密度ゆらぎ、その尾根線、および相関距離は(密度) vs.(温度)表示の相図上で一致し、これらの物理量は、普遍的な量であることを示した。 2)超臨界水のゆらぎ構造。 あまりの活性さゆえ、精密な物性測定は困難とされてきた超臨界水について、試料ホルダーを製作し、小角X線散乱を世界に先駆け成功させ、ゆらぎ構造を明らかにした。 3)熱電効果を用いた熱伝導測定法の開発と超臨界流体C0_2とCF_3Hの熱伝導度の測定。 4)光散乱法による超臨界C_2H_4の熱拡散係数および緩和時間の決定。 5)超臨界CO_2の分子内振動および低波数ラマンスペクトルの測定。 密度ゆらぎの尾根線は、超臨界状態にある分子一個一個のダイナミックスの様相の境界線でもあり、「より液体的領域」と「より気体的領域」に分ける境界線であることを明らかにした。 6)THz光を光源とした超臨界CF_3Hの遠赤外線吸収スペクトルの測定。
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