3年計画のプロジェクトの最終年として、飛行時間型質量分析計を装備した共鳴多光子イオン化分光法のための分子線用真空チェンバーを完成させ、性能のチェックを行った。この装置、および既存の分子線レーザー誘起蛍光分光用のチェンバーを用いて、以下の3点を中心に研究を行った。第一には、2-メチルインドールのLIF励起スペクトルおよびホールバーニングスペクトルを測定し、(1)この分子の発光の量子収率が低く項間交差が早いと考えられること、(2)メチル基のねじれ振動が観測されないこと、(3)低波数の振動を持つが水会合体を形成してもその振動数が大きくは変化しないこと、を見出した。第二には、5-メチルインドールの単量体および水、メタノール、ベンゼン、N_2Oとの1:1会合体について、LIF励起スペクトルおよびホールバーニングスペクトルを測定し、観測された振動数からそれぞれについてS_1状態における5-メチルインドールのメチル基ねじれのポテンシャルを決定した。会合体形成によるねじれポテンシャルの変形を詳細に検討し、ねじれ振動が分子間ダイナミックスに与える効果を検討した。第三には、大きな溶媒効果を示しかつ光異性化反応を起こすメロシアニン色素NK1247について、分子線状態でのLIF励起スペクトル、ホールバーニングスペクトルの測定を試みた。可能な4つの異性体のうち、一種のみが観測された。観測された各振電バンドについて、発光の量子収率や線幅等から光異性化ダイナミクスを検討した。また、数多く観測された低波数バンドの起源を検討した。さらに、希ガス原子やN_2Oとの会合体形成によりスペクトルの様子が大きく変化することを見出し、その原因を考察した。
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