研究概要 |
過冷却液体やガラスの構造と性質は「秩序構造クラスター凝集体モデル」に基づいて理解されるという立場から,昨年度に引き続き,その実証と新規現象探索の研究を進めた。 イソプロピルベンゼンを基本に,その1および3位の置換基を系統的に変え,αおよびβ構造緩和過程の誘電率測定による観測を行った。β緩和時間はアレニウス的な挙動を示し,イソプロピル基程度の大きさである限り1位の置換基の種類に,また3位に-OHや-NH_2基があるか否かにほとんど依存しないことを見いだした。このことは,β過程が分子末端の運動でなく分子全体の配置変化に関係した運動であること,特別な秩序構造を形成していない領域の分子運動であることを示す。α緩和時間は非アレニウス的な挙動を示し,置換基に-OHや-NH_2を含むか否かに,また置換基の大きさに強く依存することを見いだした。このことはα過程が短距離秩序をを形成した領域の分子運動であることを示す。 トルエンにおいて,115K付近に核生成主導結晶化を見いだし,その実体顕微鏡観察を行った。この発見は核生成主導結晶化が融解エントロピーの大きさに依存しない現象であることを示している。 o-ベンジルフェノールを融点以上から以下へ超急冷した後の結晶核の生成を示差走査熱測定により追跡した。その結果,ガラス転移温度以下で保持することにより結晶核が生成し,その後消滅すること,さらに長時間保持することにより再度生成することを見いだした。急冷開始温度等を系統的に変え,現在その詳細を検討中である。 二次元系ガラスの分子配置構造を直接に観察するためにトンネル顕微鏡観察を行ってきたが,長時間安定に観察するためには装置が置かれた床の改修と電気回路の改善の必要に迫られてきた。現在,その作業を進めている。
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