研究概要 |
本研究の目的は、組成・構造・内部状態を規定した気相クラスターを対象とした実験的研究によって、溶質と溶媒間の微視的相互作用によって無輻射過程がどのように制御されるかを明らかにすることにある。3年間の研究期間において、質量選別光イオン化法および高速時間分解分光の活用により下記の結果を得た。 1.溶媒の種類によって蛍光収率が大きく変化するアクリジンおよびアクリドンについて、水和クラスターにおける無輻射過程を研究した。まず、電子遷移のスペクトルシフトや赤外スペクトルを密度汎関数法による計算結果と比較することによりクラスターの水和構造を決定した。さらに、蛍光寿命がサイズや水和サイトに顕著に依存することを見出し、この無輻射過程制御のメカニズムが、近接する(n,π^*),(π,π^*)状態のエネルギー関係が微視的水和形態の差異に対応して変化するためであることを定量的に明らかにした。 2.エキシマー生成などの多様な無輻射過程が進行すると報告されているベンゼン多量体について、その電子スペクトルを再検討した。多数の同位体置換種について質量選別ホールバーニング分光を適用し、スペクトルの詳細な解析から従来の帰属が誤りであることを確証した。3・4量体について新たな帰属を提唱し、今まで矛盾していた各種の研究結果が合理的に説明しうることを示した。さらに、クラスターの構造と励起子交換相互作用に関して初めて実験的な情報を得た。 3.ピコ秒ポンプ-プローブ法を用いた回転コヒーレンス分光によって、シアノアントラセンとさまざまな溶媒からなるクラスターの構造を決定した。特に、炭素・アセトニトリル・フロロホルムのような非水素結合性の極性分子について溶媒和構造を初めて実験的に明らかにし、芳香族シアノ化合物クラスターにおける反応性と溶媒和構造との相関を議論する上での基盤を提供した。
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