研究概要 |
初年度である平成10年度は,時間分解赤外分光法の開発とポリオキシエチレン系化合物のコンホメーション解析を行った。本方法で最も重要な部分であるストップトフロー赤外セルシステムについて,その設計と開発を重点的に行い,具体的な仕様を策定する段階に至った。今回のセルシステムの開発にあたっては,種々のアイディアを取り入れて,効果的に機能するように工夫をこらした。 本年度設置された赤外分光光度計および既設のラマン分光計を用いて,いくつかの系について組織化液体の構造を研究した。特に,非イオン界面活性剤のモデル化合物である短鎖ポリオキシエチレン化合物 CH_3(CH_2)_<n-1>(OCH_2CH_2)_nO(CH_2)_<n-1>CH_3(C_nE_nC_n)およびその環状化合物の水溶液中でのコンホメーション挙動の濃度および温度依存性を精密に解析した。その結果,C-C結合およびC-O結合のコンホメーション挙動を明かにすることができ,これらの分子が組織化する際にはC-C結合のコンホメーション変化が特に重要な役割を果たしていることが分かった。最も基本的なC_1E_1C_1については,各コンホマーのキーバンドについて相対強度を求め,それらの濃度および温度依存性から,CO-C-C-OCの3連続結合のコンホメーション安定化度を定量的に見積もることができた。これらの結果は,分子動力学シミュレーションの結果とよく対応した。さらに,C_1E_1C_1水溶液について水のO-H伸縮振動を解析して,ポリオキシエチレン鎖の周りの水和構造を解析した。また,C_1E_1C_1分子の孤立状態でのコンホメーション安定性を調べるために,非経験的量子化学計算によりエネルギーを算出した。その結果,水溶液中では,孤立状態とは異なり,トランス-ゴーシュ-トランスコンホメーションが極めて顕著に安定化されることが分かった。
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