研究概要 |
平成12年度は,時間分解赤外分光法の開発とポリオキシエチレン系化合物のコンホメーション解析を行った。時間分解ATR赤外分光で用いるストップトフローミキサーに,ストップトフロー用のATRセルを結合し,効率の良い結果を得るために種々の調整を行った。ATR基板は,測定する水溶液の屈折率などを勘案してセレン化亜鉛とし,入射角度を45゜,最小測定領域を8mmφとした。さらに,分光器の光学系とのマッチングをとることにより,損失が少なく最大限の光が利用できるように設計した。このようにして,これまで研究例のなかった時間分解ATR赤外分光測定の装置を組み立て,試験的な測定を行った。 ポリオキシエチレン系化合物として,エチレンジオキシ基(OCH_2CH_2O)を有する3種類のエーテル,すなわち1,4-ジオキサン,1,2-ジメトキシエタン及びジエチレングリコールジメチルエーテルのクロロホルム溶液中の水素結合について赤外分光法により研究した。これらの溶液中に少量加えた重水素化クロロホルムのC-D伸縮バンドの強度をエーテル-クロロホルム間水素結合の強さのプローブとして用いた。解析の結果,エーテル酸素の孤立電子対はすべて等しくクロロホルムとの水素結合に関与していないことが明らかとなったが,これはおそらく立体障害によるものと考えられる。また,クロロホルム分子は非環状エーテル分子との間で強い二分岐型水素結合を形成することが実験結果から示された。さらに非経験的分子軌道計算により,二分岐型3中心水素結合の存在が確かめられた。3中心水素結合は,通常の水素結合より2倍強いので,種々の水素結合性溶媒のポリオキシエチレン溶液において実際には生じていたであろうこの普遍的な現象を見落としていた可能が高い。 本研究の成果として,時間分解ATR赤外分光測定法が可能であることを示し,研究対象とするポリオキシエチレン系化合物のコンホメーション解析を行うことができた。
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