ダイヤモンドアンビルセルは容易に入手できる簡便な高圧発生装置であるが、柔らかく壊れやすい分子性結晶の研究については実験上の困難さのために本格的には用いられたことはこれまで殆ど無い。本研究の目的はダイヤモンドアンビルセルを用いて、高圧下単結晶X線構造解析の簡便な技術を確立するとともに、並行して、高圧での精密な伝導度測定技術を確立することにより、複雑な構造を持つ分子性結晶の精密な高圧固体化学的研究の発展に寄与する事であった。高圧X線解析については高圧セルが市販されており、申請者も20年以前に我が国で初めてダイヤモンドアンビル単結晶X線構造解析実験を行った経験を持っているので、比較的容易であると考えた。事実、10kbar程度の圧力下で遷移金属錯体超伝導体の高圧構造を調べる事は比較的容易に実行された。そこで本研究の前半ではむしろ実験技術的に極めて困難と思われた4端子法電気伝導度測定技術の改良に力を注ぎ、昨年度一定の成果を得た。しかしその後は、ダイヤモンドアンビルX線セルとイメージングプレートX線検出器を用いた高圧単結晶X線構造解析技術の確立を重点的に進めた。現在、代表的な有機伝導体の高圧下の単結晶X線構造解析を行っているが、最近に至って、当初の予想を超え、信頼度因子7%台の高圧実験としては充分精度の良い解析結果が得られるようになった。有機単結晶のX線構造解析自身が殆ど例がないと思われる状況であるが、この様な精度での実験が可能となった事は大きな進歩である(現在、投稿準備中)。ダイヤモンドアンビル支持台として、以前使用した経験のあるベリリウム支持台を用い、試料の単結晶は最大径0.3mm程度の小さなものであるので、一般性のある高圧X線実験法となったものと判断している。現在40-50kbarを目指して実験を行いつつあり、一応の目標を達成しつつある。一方、並行して進めてきたより困難な4端子法電気伝導度測定技術については150kbar下での4端子抵抗測定が可能となっている。本年度はこの実験技術をまとめて、Rev.Sci.Instrum.誌に投稿した(in press)。
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