二次元ラマン分光法は二次元NMR分光法の原理を振動状態に対して応用した手法であり、振動状態間の相関を観測することにより複雑な分子の構造や電子状態についての知見を得ることができる。従来、五次の光学非線形現象に基づく二次元ラマン分光が提唱され、我々のグループも含め世界的に五次の二次元ラマン分光が行われてきた。しかし、この五次の手法には本質的な問題があることを見いだし、それらを解決するために七次の二次元ラマン分光を提唱した。本研究では、七次の二次元ラマン分光に必要な高出力・超短パルスレーザーシステムを製作し、実験を行うこと、また理論的な枠組みを構築することを目的としている。レーザー装置の製作としては二つの異なる装置の製作を開始した。一つは色素溶液をレーザー媒体とする超短パルスレーザーシステムで、異なる波長の二つの短パルスをピコ秒以内のタイミングジッターで出すことができる。本年度は共振器及び増幅器を大幅改良し、3kHzの繰り返しでそれぞれ数μJ/pulseの出力エネルギーを得ることができた。このシステムは分子内振動に対する二次元ラマン分光を行うシステムであるが、予備実験として三次のコヒーレントアンチストークス散乱の実験を行い、S/N比のよいデータを得ることができた。もう一つのシステムはチタンサファイアをレーザー媒体とした固体レーザーであり、高安定・高出力・極超短パルスを期待することができる。本年度は、実験室の大幅改良、実験室環境の整備などを行い、チタンサファイアレーザーの製作に取りかかった。現在、CW発振を得ることができ、モードロックの調整を行っている。理論的には、光学的二次元分光に一般的に用いることができる手法をstochasitc-Liouville方程式を用いて導き、現在その数値計算を行うべくプログラミングを行っている。
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