研究概要 |
二次元ラマン分光法は二次元NMR分光法の原理を振動状態に対して応用した手法であり、振動状態間の相関を観測することにより複雑な分子の構造についての知見を得ることができる。七次の光学非線形現象に基づく二次元ラマン分光法を開発するために、以下のことを行った。(1)色素溶液をレーザー媒体とする超短パルスレーザーシステムを製作した。異なる波長の二つの短パルスをピコ秒以内のタイミングジッターで出すことができる。共振器及び増幅器を大幅改良し、3kHzの繰り返しでそれぞれ数μJ/pulseの出力エネルギーを得ることができた,このシステムは分子内振動に対する二次元ラマン分光を行うシステムであるが、予備実験として三次のコヒーレントアンチストークス散乱の実験を行い、S/N比のよいデータを得ることができた。(2)七次などの高次非線形分光の実験を行う際に問題になってくる、低次のラマン散乱によるカスケーディング効果をどのようにして真の七次の信号と見分けるかを議論した。分子間振動による分極率が分子の加算性を満足することを示すことにより、信号強度の試料濃度依存性を議論することによりカスケード信号と真の信号の区別が可能であることを示した。(3)七次の二次元ラマンスペクトルを理論的に予測した。従来用いられてきた時間に依存する摂動論の立場からではなく、あらかじめ摂動を受けた状態を用いる方法を新たに展開した。特に、モードの非調和結合とスペクトルのクロスピークの関係について議論し、クロスピークの物理的意味を明確にした。(4)七次の非線形分極率を引き起こすのに十分な出力を持つ超短パルスレーザーの製作を行った。自作のフェムト秒チタンサファイアレーザーにキャビティダンパーを組み込み、4MHzの繰り返しで67nJ/pulse、11fsのパルスを得ることに成功した。
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