研究概要 |
ケイ素は周期律表において炭素の直下に存在する14族元素であることから、有機化学の中心的元素である炭素をケイ素に置き換えた化合物は非常に興味深い研究対象である。これまでにもオレフィンに対応するシレン、ジシレン、カルベンに対応するシレン、カルボカチオンに対応するシリレニウムイオン等において興味深い研究が報告されている。しかしながら、有機化学における最も基本的な化合物の一つであるベンゼンのケイ素類縁体シラベンゼンについては極低温マトリックス中での分光学的検出は行われていたものの、安定に合成された例はなかった。昨年度の研究において、ケイ素上に立体保護基として2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(Tbt基)を持つシラベンゼンの合成に成功し、その^<29>Si-NMRおよび^1H-NMRにより芳香族性を持つことを明らかにした。しかし、得られたシラベンゼンの純度が充分高くなかったためX線結晶解析に必要なきれいな単結晶が得られなかった。本年度は合成経路を再検討することにより良い単結晶を得、X線結晶構造解析に成功した。Tbt置換シラベンゼンはほぼ完全に対称である。Si=Cは結合長1.765Åと1.770Åで通常のケイ素-炭素二重結合と単結合の中間であり、C-C結合長は1.381-1.399でほぼベンゼンのC-C結合長と同じであった。得られたシラベンゼンは光照射によりシラベンズバレンに異性化し、シラベンズバレンは熱によりシラベンゼンに戻るという極めて興味深い反応性を示した。
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