前年度の研究で、すでにタングステンカルボニル錯体を利用する環化反応におて、7-シロキシ-6-エン-1-インに対し、THF中、水存在下10モル%のW(CO)_5・THFを作用させると、5-エキソ環化体のみが高収率で得られるのに対し、クロロホルム中、W(CO)_6と20倍モル量の水存在下直接光照射すると、エンド環化体が主生成物として得られることは明らかにしている。 本年度はまず、この反応を利用して環状アルケノンへの環形成反応を検討した。すなわち、ブチニルユニットとしてプロパルギルマロナートを、シリルトリフラート存在下でシクロアルケノンに作用させることにより、上述した7-シロキシ-6-エン-1-イン型の基質が合成できることを見いだした。これに対し、水存在下10モル%のW(CO)_5・THFをTHF中作用させたところ、5-エキソ環化体を選択的にかつほぼ定量的に得ることができた。一方、6-エンド環化体に関しては、反応溶媒としてトルエンを、またシリル置換基としてかさ高いシリル基を用いると選択性が向上し、反応混合物を直接光照射することにより、高い選択性でエンド環化体を得ることができた。この手法を用いることにより環状アルケノンからビシクロ[n.3.0]およびビシクロ[n.4.0]骨格を有する二環性化合物を容易に得ることができる。さらに、この環形成反応を鎖状のα、β-不飽和ケトンに対して適用したところ、各種の基質に対して、同様にエキソ、エンド両環化体の作り分けができることを見いだした。しかもこれらの環化体はいずれも単一の立体異性体として得られることがわかった。
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