研究課題/領域番号 |
10440187
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田村 類 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助教授 (60207256)
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研究分担者 |
林 直人 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助手 (90281104)
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キーワード | 光学分割 / ラセミ化合物 / 混晶 / ラセミ結晶 / 結晶構造 / 結晶多形 / 再結晶 / 多形転移 |
研究概要 |
われわれが提唱した優先富化現象のメカニズムの検証とこの現象の一般性を明らかにすることを目的とし、ラセミ体の新しい光学分割現象である優先富化現象を示すことが明らかとなった化合物が、いずれもグリセリン骨格とオニウム塩構造を有することに着目し、これらの骨格と構造がどの程度必要であるかを知るために、これらの誘導体を種々合成し、再結晶による光学分割実験を試み、優先富化現象を示す化合物とそうでないものに分類した。ついで、それぞれの化合物について、ラセミ体と光学活性体および非ラセミ体の熱分析、粉末X線回折、そして単結晶が得られたものについてはX線結晶構造解析を行った。その結果、優先富化現象を示すラセミ体の安定な結晶形はラセミ化合物、もしくはラセミ化合物にきわめて近い秩序性の高い混晶で、これらの空間群はすべて対称性の低い三斜晶系のPl^^-(Z=2)であり、結晶中では水素結合により(+)分子と(-)分子が二量体を形成しており、さらにこの二量体が水素結合により相互作用して一次元鎖を形成していることが判明した。また、優先富化現象を示すラセミ体の準安定な多形であるラセミ混晶の空間群は、最も対称性の低いP1(Z=2)であり、結晶内で水素結合による(+)分子どうしまたは(-)分子どうしのホモキラルな二量化がみられたが、二量体間の相互作用はなかった。一方、優先富化現象を示さなかったラセミ体の安定な結晶形は一様にラセミ混晶であり、対称心のあるさまざまな空間群をとり、(+)分子どうし、(-)分子どうし、あるいは(+)分子と(-)分子間で水素結合による二量体を形成し、二量体が結晶中でランダムに配列しているが判明した。これらの事実より、優先富化現象が起こる場合には、溶液中からの結晶化の際に、まず準安定なラセミ混晶核が生成し、これが相転移(多形転移)を起こして、より安定なラセミ化合物結晶核に変化する可能性が高くなった。すなわち、溶液中でのエナンチオマーの会合に始まる結晶核の生成、結晶核の多形転移、結晶成長の一連のプロセスが優先富化現象のメカニズムと密接に関連していることを示唆するものであった。
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