研究概要 |
1. 1-ブロモアダマンタンの他の橋頭位に i-プロピル基を順次導入した化合物のソルボリシス速度を測定した。その結果,エタノールやエタノール・トリフルオロエタノール混合溶媒中など非含水溶媒中では i-プロピル基の数と速度の対数との間に加成性が成立したが,70%エタノール中では(i-Pr)_0<(i-Pr)_1>(i-Pr)_2>(i-Pr)_3となった。スペイン物理化学研究所との共同研究で測定された対応するカチオンの気相安定性は,逆にi-プロピル基の数とともに増大し,理論計算によっても支持された。含水溶媒中の特異な溶媒効果は主に疎水性相互作用によると解釈される。n-プロピル基でも同様な結果が得られた。 2.新たに合成したイオン解離性炭化水素を用いて,炭化水素のC-C結合解離によるパイ共役イオン対生成の精密な反応速度測定を行った。解離の自由エネルギー変化は数kcal/molと小さいにもかかわらず,大きな活性化障壁(〜19kcal/mol)を持つことが明らかとなり,結合がかなり伸びた時点でσ結合を形成する電子対がイオン対的電子配置に変化することが示された。また,負の大きな活性化エントロピーが観測されたことから,遷移状態において溶媒和が顕著となることが示唆された。 3.溶液中のカルボカチオンに対する溶媒分子の溶媒和能を,溶液断片化質量分析法によるトロピリウムイオン(Tr+)に対する溶媒和クラスターの生成能の比から定量的に評価した。その序例とは比はMeOH<EtOH<n-PrOH〜1.0:3.2:11となり,溶媒分子のアルキル基が長くTr+との疎水性相互作用の強いものほど溶媒和しやすい傾向を示し,理論計算によるTr+と溶媒分子の相互作用の強さの序列とも合致しており,Tr+に対する溶媒分子の反応性にも反映している。
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