研究概要 |
三配位のテルル化合物であるテルロキシドの二つの置換基が異なるとき、テルロキシドには鏡像異性体が存在するはずである。しかし、テルロキシドは系中に存在する僅かな水と反応して水和物となる速い平衡によって容易にラセミ化するため、光学活性テルロキシドは単離されていない。本研究では、1)テルロキシドに嵩高い置換基を導入することによってテルロキシドへの水の攻撃を速度論的に抑制して安定化する、2)分子内にアミノ基のようなLewis塩基を導入しこれをテルル原子に配位させることによって熱力学的に安定化する、二つの手法を用いれば不安定な光学活性テルロキシドが安定に単離できるものと考え、2,4,6-トリメチルフェニル-2'-(N,N-ジメチルアミノ)メチルフェニルテルロキシド(1)、2,4,6-トリイソプロピルフェニル-2'-(N,N-ジメチルアミノ)メチルフェニルテルロキシド(2)、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル-2'-(N,N-ジメチルアミノ)メチルフェニルテルロキシド(3)、8-ジメチルアミノ-1-ナフチルフェニルテルロキシド(4)および8-ジメチルアミノ-1-ナフチル-2',4',6'-トリイソプロピルフェニルテルロキシド(5)を合成し、光学活性カラムを用いるクロマトグラフィーによる光学分割を行った。その結果、光学的に純粋なテルロキシド・エナンチオマーをそれぞれ単離することに成功した。得られた光学的に純粋なテルロキシドの絶対配置は、別途に合成した類似構造を有する絶対配置既知のセレノキシドのCDスペクトルの比較により決定することができた。これらの光学活性テルロキシドは、固体状態ではラセミ化されず安定であるが、溶液状態では溶媒中の水を可能な限り除去しても徐々にラセミ化した。しかしながら、嵩高い置換基による速度論安定化およびアミノ基の配位による熱力学的安定化が、光学活性テルロキシドのラセミ化を抑制するのに非常に効果があることが明らかになった。
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