研究概要 |
硫黄およびセレンを配位原子とする欠電子性前周期遷移金属カルコゲン錯体を母体とする新しい無機化学の構築めざした研究を行ない,以下の成果を収めた。 1. ペンタメチルシクロペンタジエニル補助配位子をもつ半サンドイッチ型タングステンクロリドおよびモリブデンクロリドとリチウムチオラート類との反応から,[Cp^*W(S)_3]^-,Cp^*W(S)_2(SCMe_3),Cp^*Mo(SCMe_3)_3,[Cp^*Mo(SCH_2CH_2S)_2]^-などの単核チオラート/スルフィド錯体を得た。また,Cp^*Mo(SCMe_3)_3と4倍当量のヒドラジン類を作用させることによりCp^*Mo(S)_2(SCMe_3)を得,さらに過剰の無水Li_2S_2との反応により,(PPh_4)[Cp^*Mo(S)_3]に変換した。一方,半サンドイッチ型タングステンクロリドにセレノラートを反応させることにより,[Cp^*W(Se)_3]^-を合成することにも成功した。 2. [Cp^*Mo(S)_3]^-および[Cp^*W(S)_3]^-の末端スルフィドはアルキン類と容易に反応し,対応するジチオレン錯体[Cp^*M(S)(SCH=CHS)]^-を与える。この反応をNMRによって追跡し,2次反応速度定数と活性化パラメーターを決定するとともに,反応機構を検討した。活性化エントロピーは-25cal/molK(M=Mo),-24cal/molK(M=W)であり,反応が2分子機構で進行することを示す。また,活性化エンタルピーはモリブデン錯体の方が2.2Kcal/mol小さく,末端スルフィドへのアルキン付加がタングステン錯体よりも速く進むことが明かとなった。 3. 種々のハロアルカン類を用いることにより,[Cp^*W(S)_3]^-の末端スルフィドのアルキル化反応を行なった。例えば,アリルクロリドあるいはメタリルクロリドとの反応からはアリルチオラート/スルフィド錯体Cp^*W(S)_2(SCH_2CR=CH_2)が単離された。このアリルチオラート配位子のアリル部位は溶液中で興味深い動的挙動を示すことを発見し,NMRによってその活性化パラメーターを決定した。
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