研究概要 |
硫黄およびセレンを配位原子とする欠電子性前周期遷移金属カルコゲン錯体を母体とする新しい無機化学の構築めざした研究を行ない、平成11年度には以下の成果を収めた。 ペンタメチルシクロペンタジエニル補助配位子をもつ半サンドイッチ型タングステンクロリド,Cp^*WCl_4とLiSe^tBu/Li_2Se_2/PPh_4Brとの反応より,(PPh_4)[Cp^*WSe_3]と(Cp^*WSe)_2(μ-Se)_2が単離された。以前に合成した類似トリスルフィド錯体(PPh_4)[Cp^*WS_3]と上記トリセレニド錯体(PPh_4)[Cp^*WSe_3]との間では溶液中で不均化反応がおこらないことが確認されたことにより,異なったカルコゲン原子が単核金属に同時に配位した混合カルコゲニド錯体の合成に挑戦した。まず,前駆体となるCp^*W(S)_2ClをCp^*WCl_4とMe_3SiSCH_2CH_2SSiMe_3との反応から高収率で単離した。次に,アミン存在下,Cp^*W(S)_2Clを少量の水で加水分解したあとPPh_4Brでカチオン交換することにより,オキソ/ジスルフィド錯体(PPh_4)[Cp^*W(O)(S)_2]が得られた。さらに,PhCH_2Brを用いて(PPh_4)[Cp^*W(O)(S)_2]の配位硫黄原子へのアルキル化を行ない,(PPh_4)[Cp^*W(O)(S)(SCH_2Ph)]へと導き,さらにLi_2Se_2/PPh_4Brによるチオラート部位のセレン化反応から(PPh_4)[Cp^*W(O)(S)(Se)]を高収率で単離・構造決定することに成功した。得られた標的化合物はタングステン骨格に,酸素,硫黄,セレン原子が一個ずつ結合しており,タングステンが不斉中心となっている。その光学異性体の単離をめざし,不斉アルキル基(R^*)をもつジアステレオマー(PPh_4)[Cp^*W(O)(S)(SR^*)]を合成した。今後ジアステレオマーを分離したあと,セレン化反応を行なって(PPh_4)[Cp^*W(O)(S)(Se)]の不斉分割を試みる予定である。
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