研究概要 |
本年度は銅,バナジウム等の二核および四核錯体の合成と構造解析,およびこれらの基本物性を調べた。新化合物であるN-2(ヒドロキシメチルフェニル)ベンジルアミンおよびヒドロキシメチルフェニル部位に置換基を有する同族体を合成し,これら三座配位子と酢酸胴を反応させることにより三種の銅(II)錯体(置換基無:〔CuL〕_4(1),-CH_3:〔CuL-Me〕_4(2),-Cl:〔CuL-Cl〕_4(3))の単離に成功した。これらが四核錯体を形成していることは,高分解能マススペクトルで相当する分子イオンピークが検出されたことから確かめられた。錯体の構造はX線結晶構造解析により確かめられ,置換基無の錯体1はアルコキソ酸素で架橋された二核銅錯体ユニットがCubane状にスタックした2量体,そしてメチル基やクロロ基等の置換基を有する錯体2,3ではOut-of-Plane型の2量体構造を形成し,4つの銅イオンはそれぞれ5配位四角錐構造をとっていることが示された。いずれの錯体も全体として複雑な立体構造であるが,配位子がメチレン炭素部位で柔軟に折れ曲がることにより構造の安定化を導いていると考えられる。これら錯体の磁気的挙動は四核銅錯体の理論式で説明でされ,二核ユニット内の銅イオン間には強い反強磁性的相互作用,一方ユニット間には弱い強磁性的相互作用が働いているものと解釈された。ジクロロメタン溶液の電子スペクトルは,固体の反射スペクトルとほぼ同様であることから,ジクロロメタンのような非配位性の溶液中では四核構造が保持されていると考えられる。また,サイクリックボルタンメトリーによる電気化学測定では+0.8V付近に銅イオンの一電子酸化波が観測されるのみであったことから,これらの錯体は電気化学的な活性は非常に低いことが示された。これは,錯体中のすべての銅イオンが溶液中においても固体状態と同様の5配位状態を保ち,銅(III)の平面構造や銅(I)の四面体構造を形成しにくいためと考えられる。
|