研究概要 |
1.1,10-フェナントロリン(phen)あるいは2,2'-ビピリジン(bpy)を配位子とする3価金属錯体とナフタレンスルホン酸イオン(1-NS^-あるいは2-NS^-の塩の水溶液が、特定の組成範囲で希薄溶液相と濃厚溶液相の2液相に分離する現象が見出された。その相図は、フェノール-水系の場合と類似し、臨界共溶温度(T_c)が存在し、T_c以上で相分離現象は消滅した。T_c は、phen錯体の方がbpy錯体よりも高く、また、1-NS^-の塩の方が2-NS^-の塩よりも若干高くなったが、中心金属による違いは小さかった。いずれの塩も極めて吸湿性が強く、その濃厚水溶液は一見疎水的で撥水性があり多量の水の中に入れても溶解に時間を要すること、濃厚溶液の粘度は濃度増大に伴い著しく増大することなどが分かった。また、2相分離現象を示す塩の条件として、錯体の電荷が3価でphenやbpyなどの疎水性配位子を含むこと、陰イオンは電荷が1価で疎水基として2個以上の芳香環を含み、極性基はスルホン基のように水素結合能の弱い基であることが分かった。 2.上記金属錯体の1-ナフタレンスルホン酸塩水溶液のX線回折測定を行った。その結果得られた動径分布関数から、溶液中で錯体が集合しており、1-NS^-イオンの芳香環の一部が錯体の配位子間の疎水性空隙に侵入していること、隣接錯体の配位子はこの疎水性空隙には入り込んでいないこと、その構造は温度によりあまり変化しないことが分かった。また、水濃度が高くなり2相分離直前になると、小角領域に向かって散乱強度が増大したことから、水の局在化を示唆する密度ゆらぎが増大し、これが相分離に繋がるものと推測された。
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