植物の葉緑素より導かれる金属クロロフィルは、人工光合成の捕獲中心モデルやレーザーによる癌の光化学治療(PDT)において重要な役割を果たす色素として注目されている。癌の光化学治療には皮膚透過性の高い長波長域のレーザー光が使用されるため、金属クロロフィルのように可視部の長波長域に強い吸収を有することが光増感色素としてより有効となる。水溶性金属クロロフィルの癌細胞への集積特性、特に金属クロロフィルとDNAの相互作用の研究が、癌の光化学治療を分子レベルで理解していく上で必須となる。本研究では、次世代の光化学治療用の光増感色素として注目される水溶性金属クロロフィル誘導体について、電子スペクトル、円偏光二色性、DNAの融解温度の測定などによりDNAへの集積特性を検討した。癌の光化学治療用の光増感色素として有望視されているクロリンe_6およびその金属錯体とDNAとの相互作用は、中心金属種やマクロ環構造の影響を受けやすい静電的な結合あるいは水素結合によるものであり、従来のカチオン性ポルフィリンとは異なる結合様式であることが分かった。また、レーザーによる癌の光化学治療用の光増感剤として注目されている両親媒性の非イオン性亜鉛(II)ピロフェオホーバイド-グルコースアミン複合体は、結合様式において従来のカチオン性ポルフィリンとは異なるが、ct-DNAと比較的強く相互作用することが分かった。さらに、クロリンe_6トリメチルエステルおよびピロメチルフェオホーバイドaの2a位にトリメチルアンモニウムメチル基を導入した一連のカチオン性金属クロロフィルを合成し、それらのDNAとの相互作用を調べた。その結果、それらの相互作用は中心金属種やマクロ環の構造にあまり影響を受けない静電的なものであり、カチオン性ポルフィリンにおけるものとは結合様式が異なることが分かった。
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