研究概要 |
複雑系の特質は.マクロな観測手法によって得られた結果を,ミクロな観測手法によって得られた結果に還元しようとする際に、非線形相互作用が不可欠であるという点である.本研究で対象とする系では,いずれも,熱容量測定(マクロな観測手法)による結果と中性子散乱実険(ミクロな観測手法)による結果を両者とも矛盾なく説明するには,何らかの非線型性や非平衡,乱れを前提としなければならないにとが分かってきた.そこで,これらの系に対象を絞って,より系統的な研究を行うことにより,その複雑性を解明しようというのが本研究の目的である. 前年度は,極低温発生装置としてヘリウム希釈冷凍繊を導入し,熱容量測定を可能にするために熱スイッチを作製し,これを組み込んだ.また,試行錯誤の結果,熱量計部分を適切な断熱条件に置くことができた.現時点で定常的に熱容量データが得られる最低温度は0.2Kである.(今後,断熱条件を改良するなどして最低温度を0.1Kにしたいと考えている.) 今年度は,熱容量測定の精度を決定している精密温度測定を可能にすべく,交流抵抗ブリッジを新規に構入した.その結果,これまでの直流抵抗測定に比べ格段に精度が向上した.希薄(孤立)アンモニウムイオンを対象として,Kl/Rbl系の組織変化による影響を調べるため種々の試料について無容量測定を行った.いずれの場合も,最低温度を0.7Kとするこれまでのわれわれのデータとよく一致し,0.2Kまで拡張することができた.グラファイト表面に吸着した同位体メタン単分子膜のトンネル励起を測定するため,熱量計セルを設計,製作した.今年度で測定系の整備を完了したので,最終年度である来年度は熱容量測定に集中するつもりである.
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