研究概要 |
複雑系の特質は,マクロな観測手法によって得られた結果を,ミクロな観測手法によって得られた結果に還元しようとする際に,非線型相互作用が不可欠であるという点である.本研究で対象とする系では,いずれも,熱容量測定(マクロな観測手法)による結果と中性子散乱実験(ミクロな観測手法)による結果を両者とも矛盾なく説明するには,何らかの非線型性や非平衡,乱れを前提としなければならないことが分かってきた.今年度は最終年度でもあり,本来目的としていた系以外にも,複雑性という観点で今後の展開に繋がる可能性を有する対象を意識しながら研究を実施した. 1.極低温発生装置として本研究計画により導入したヘリウム希釈冷凍機は,2000年8月に新棟への移転を行ったため,分解・移転・組立調整に伴う期間が必要であった.そのため,当初もくろんだほどの熱容量測定は残念ながらできなかった.本来のパフォーマンスが得られることを確認した. 2.グラファイト表面に吸着した単分子膜,あるいは固液界面で発生することを見出した単分子膜固体を対象として熱容量測定および中性子散乱実験を行った.対象とした分子は,アルカンやアルコール,カルボン酸などであり,その相挙動,構造,ダイナミクスを明らかにした.また,新規な物質群である準結晶についても熱容量測定の他に,熱膨張測定および中性子散乱実験を共同研究として実施し,2次元準結晶および3次元準結晶の熱力学的特性を明らかにした.同位体置換により固体物性に変化が見られる現象,圧密シリカガラスの極低温熱容量,ダイボールガラスの研究を引き続き行った.
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