研究概要 |
パーメチル化β-シクロデキストリン(TMe-β-CD)とメソ位に電荷を有するポルフィリンとの2:1包接錯体の生成につき,UV-visによる静的およびストップドフロー法による動的手法により詳細に検討した.100%水中の錯形成は強すぎるため,正確な1:1および2:1錯体結合定数(K_1,K_2)を求めることが出来ない.そこで,50%の有機溶媒(DMSO,エチレングリコール,グリセリン等)を含む水溶液中でのK_1,K_2を決定した.ここでは紙面の関係で50%エチレングリコール中の結果についてのみ報告することにする.メソ位のω位にピリジニウムカチオンを有するポルフィリン(TPPOC3Py)について,UV-vis法ではK_1=4.6x 10^4 M^<-1>,K_2=4.4x10^5M^<-1>となり,1:1錯体が,さらに2:1錯体へと移行する過程がより進行しやすいことが示された.しかしこのデータのみでは,詳しい包接機構は分からない.そこで,ストップドフロー法により,各過程の速度定数を決定した.その結果,錯体の生成速度は1:1錯体生成過程の方が2:1のそれよりも速いが,錯体の解離速度が,2:1錯体では著しく遅いことが明らかになった.さらに,アニオン性のポルフィリンであるTSPPと比較すると,明らかに各過程において,アニオン性ポルフィリンの方が,カチオン性のそれよりも大きな速度定数を持つことが分かった.シクロデキストリン空洞は負電荷になじむ雰囲気であることが示唆される.錯体生成の熱力学的パラメータも決定したが,いずれの過程もエンタルピー支配であった.今回イオン性ポルフィリンの包接挙動の貴重な基礎的知見が得られたので,今後これらの結果を基に,包接機構を提出し,その一般性を検証する.
|