研究概要 |
水中における水素結合については、その直接証明は極めて困難であるため、水と同じ極性溶媒であるDMSOを用いて検討した。シクロデキストリン(CD)とp-methylbenzoateアニオンとの水素結合錯体はDMSO-d_6中のNMRから直接観察できた。その結果、DMSO中では形成される水素結合も、わずかな水の共存で破壊されることが明らかとなり、水中では高分子効果か近傍効果がないかぎり、単純な人工系では、水素結合錯体は生成しないことが分かった。 クーロン相互作用を用いる分子認識系の構築を目指した。カチオン性CDはアニオン性ゲスト分子をその空洞に包接し、このクーロン相互作用とvan der Waals相互作用との協同効果による錯生成は、脱水和による正のエントリピー変化を伴うことを見いだした。この系をアニオン性CDとカチオン性ゲスト分子の組み合わせにしても、同じような熱力学的データが得られることを見いだし、その一般性を確かめた。このクーロン相互作用を用いると、これまで困難であった、アミノ酸の中心不斉認識が可能となり、さらに発展させて、Ru(phen)_3^<2+>錯体の不斉認識も実現させることができた。 パーメチル化β-シクロデキストリン(TMe-β-CD)とメソ位に電荷を有するポルフィリン(TPPS)との2:1包接錯体の生成につき,UV-visによる静的およびストップドフロー法による動的手法により詳細に検討した.極めて安定な錯体が生成し、人工酵素を構築できるほどの系であることを明らかにした。そこで、ポルフィリンに鉄を導入し、FeTPPSとTMe-β-CDとの錯体についても、ヘモグロビンやミオグロビンモデルとして研究した。その結果、水中では認められない鉄へのアキシャル配位や、pHによって変化する錯体の化学量論についての詳細な知見を得ることができた。今後はこれらの基礎データを用いた応用研究を実施する。
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