研究概要 |
多核金属錯体の中心金属のレドックスでは多くの場合1電子多段階酸化還元過程が見られ,多段階の酸化還元電位は,各段階で生成する種の,金属間相互作用と溶媒和エネルギーの二つの因子が大きく関与する。ここでは,電子移動過程が充分速いことが知られているフェロセン([FcH])が,直接つながったビフェロセン([Fc-Fc])およびエチレン鎖でつながった1,2-ジフェロセニルエタン(〔FcCH_2CH_2Fc])の二つの2核フェロセン錯体の2段階酸化過程の酸還元電位に対する溶媒効果を検討した。 各錯体の各段階のボルタンメトリーより求めた酸化還元電位(E^0')の濃度変化より,電極反応エントロピーを求めた。1段階目の1電子酸化過程[Fc-Fc]^+/[Fc-Fc]の電極反応エントロピーΔS^0_1と2段階目の1電子酸化過程[Fc-Fc]^<2+>/[Fc-Fc]^+のΔS^0_2の比ΔS^0_2/ΔS^0_1は2に近い値を示すのに対し,[FcCH_2CH_2Fc]レドックスに対するその値はおよそ1である。なお,いずれのイオンも剛球体とみなすボルンの溶媒和エントロピーからの比の値は3となる。また,ΔS^0_1([Fc-Fc]^+/[Fc-Fc])はΔS^0_1([FcCH_2CH_2Fc]^+/[FcCH_2CH_2Fc])よりも小さい。以上の結果より,[Fc-Fc]では電荷が非局在化した状態での溶媒和,([Fc-Fc]^+)(S)_p,([Fc-Fc]^<2+>)(S)_qで表現されるのに対し,[FcCH_2CH_2Fc]では電荷が局在化した状態での溶媒和,(S)^+_r[FcCH_2CH_2Fc],(S)^+_r[FcCH_2CH_2Fc]^+(S)_rとして表すことが妥当であるが明らかになった。
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