研究概要 |
日本の常緑広葉樹林を、その北限としての特性に着目して、群落構造、構成種の種特性とニッチを明らかにすることを目的に調査・研究を行った。常緑樹林の階層また地形的立地をすみ分ける種群のシュート・フェノロジー、芽、葉やモジュール構造を含めたシュートの形態、樹形形成、地形的立地で異なる環境要因との関係などから解明した。林冠と下層を住み分ける二つの樹種群は芽タイプ、リーフサイズ、シュート・モジュールの構造的特性などが明らかに対照的に異なる。葉に関してはサイズのみならず、SLW(厚さ)、窒素含量なども異なる。とくにこれらの樹種群は同時に地形的立地も住みわけており、葉のC/N比の違いとなって、森林の物質循環とも関わることが明らかになった。森林の下層で共存する上層木の若木と下層木を比較するとシュートモジュール、樹冠の形成・維持様式が異なる。シュート・モジュール単位ではモジュール長、葉数ともにスケール芽の林冠種のほうが大きいが、モジュールあたりの葉数や葉面積にしてみると下層のヒプソフィル芽の樹種の方が大きな値を示した。すなわち、林冠木は伸長優先で被陰回避、下層木は葉面積を大きくすることで光不足の下層で耐陰性を高める適応的な属性を持っていた。林冠を構成するスケール芽の樹木は最下枝が早く交代して上方伸長が活発で林冠の枯れ上がりが激しいのに対して下層木は下枝が長く生き残り次第に樹冠が厚くなる。したがって最下枝の年齢が林冠種よりも下層種で大きい。林冠木のスケール芽樹種と下層木のヒプソフィル芽樹種は成熟個体のサイズが異なるが、2つの芽タイプの樹種は単一モジュールのサイズが異なるほかに、モジュール同士の連結の連続性が異なる。スケール芽の樹種はモジュールが独立して形成される(同時枝は除く)のに対し,ヒプソフィル芽の樹種は同時枝を持つ種が多く、芽の内部だけでなく主軸と側軸との間にも優劣関係が生まれ、結果的に長い主軸と短い側軸が形成されることになる。したがって個体全体としては頂芽優勢(apical control)が働き、excurrentな樹冠を形成する。他方、スケール芽の樹種は全ての枝が基本的には同格なので、樹冠はdecurrentな構造を示し、モジュールが作られる限りは、上方伸長が可能となる。
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