研究概要 |
高山烏類イワヒバリの繁殖地は、高山帯山頂部に限定されるため、繁殖分布は隔離されている。各山塊で繁殖するイワヒバリの遺伝的多様性を調べるため、11山岳から計54個体(乗鞍岳22個体、駒ヶ岳3個体、妙高山6個体、立山7個体、月山4個体、八ヶ岳2個体、白山4個体、仙丈ヶ岳1個体、富士山1個体、鳥海山1個体、燕岳3個体)の血液を採集し、mtDNAコントロール領域の解析を試みた。今回分析されたイワヒバリの遺伝子座は、ND6領域-コントロール領域-12sRNA領域の順に配列しており、この構造は他の烏類種と同様の配置であった。飛騨山脈の35試料から検出されたA, B, Cからなるハプロタイプは、他の山塊の試料からも検出され、各山塊の個体群は独立しておらず、地域間での遺伝的な交流の存在が示唆された。イワヒバリのハプロタイプ多様度は0.56で、烏類のレッドデータ種に比べて高い値を示した。しかしながら、絶滅の危険性のないコオオバシギ(0.45)の次に低い値だった。乗鞍岳個体群におけるマイクロサテライト分析では、他の鳥類に比べ多型を持つマイクロサテライト遺伝子座の数が極端に少なかった。ハプロタイプ多様度の低さ、マイクロサテライト遺伝子座の多型の少なさは、孤立した小さな個体群での繁殖、雛の出生地への高帰還率、成鳥の高帰還率に起因すると考えられる。 イワヒバリは冬季に低山帯で越冬する漂鳥である。繁殖地では群れで繁殖するが、越冬地では繁殖地の個体とは別個体が群れをつくる。越冬個体が次の繁殖期に他の繁殖地に分散することにより、山脈間の遺伝的な交流が行われているものと考えられる。
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