光合成アンテナ系でのエネルギー移動過程について、従来から提唱されている弱い相互作用ではなく、中間結合を基本にすえた統一的な描像を求めることを目的として、光合成細菌から高等植物に至る多様なアンテナ系について解析を行ない、以下に記すような成果を得た。 (1)弱い相互作用の典型と考えられてきたフィコビリンタンパク質の1種、フィコシアニンについて、色素とタンパク質の相互作用を検討した。色素の窒素原子と相互作用する特定のアスパラギン酸が電子状態を決めることを基準振動解析から明らかにした。この相互作用と比較すると色素間の相互作用は明らかに弱く、エネルギー移動過程は、従来の我々の解析通りに、中間結合はないと結論された。 (2)現存する生物として唯一クロロフィルdを持つ藍色細菌Acaryochloris marinaについて、そのアンテナ系の構成を明らかにし、エネルギー勾配に逆らった移動過程が本質的に起こることを解明した。弱い相互作用であれば、熱エネルギーの壁が大きいが、相互作用が強くなるにしたがって、この状況が変わることを考察した。 (3)強い相互作用の典型である緑色光合成細菌のアンテナ系、クロロゾームについて、色素間の相互作用と機能との関連を解析した。アンテナの大部分は強い相互作用をするが、膜へのエネルギー移動を司る成分は必ずしもこの範疇に入らないことを提唱した。 (4)3年間の研究を基礎に、光合成アンテナ系での分子構築、分子間相互作用に関して総合的に考察した。結果の一部は、現在印刷中の教科書や専門書の一節として書くことができ、当初の目的の一部は達成された。
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