研究概要 |
高等植物の液胞は,貯蔵器官にみられるタンパク質蓄積型液胞と栄養器官の分解型液胞の2つに大別されている.両液胞は明確に区別されているにも関わらず,種子の成長の過程をみると,相互に変換が起こっている.私達は,未熟種子のタンパク質蓄積型液胞内で貯蔵タンパク質の成熟化に関与する酵素の実体を解明し,液胞プロセシング酵素(VPE,Vacuolar processing enzyme)と命名した.その後,高等植物には,貯蔵器官型と栄養器官型のVPE homologuesが存在すること及び,それぞれが,タンパク質蓄積型液胞と分解型液胞で機能していることを明らかにした.前者のVPEは,貯蔵タンパク質の成熟化や生体防御因子の一つであるTrypsin inhibitorの活性化を担っていることを示し,一方,後者のVPEは,細胞死,ストレス,過敏感反応などにより誘導される分解酵素やPRタンパク質(Pathogen-related proteins)の活性化に関与している可能性を示した. 登熟期の種子細胞にはタンパク質蓄積型液胞が存在するが,この液胞へのタンパク質の輸送機構を明らかにし,この細胞内輸送に関与する小胞をPAC(Precursor-Accumulating)小胞と命名した.PAC小胞の解析から,新規の液胞タンパク質の細胞内輸送経路が見つかった.これまで酵母の液胞タンパク質の液胞選別輸送とのアナロジーから,植物の液胞タンパク質も粗面小胞体で合成された後に,ゴルジ体を経て液胞へ輸送されると考えられてきたが,高等植物においては,ゴルジ体を経由しない経路が存在することが明らかになった.また,このPAC小胞依存的な経路を栄養器官の細胞において誘導させることにも成功した.上記の解析から,高等植物の分化した液胞はそれぞれの液胞機能タンパク質の活性発現系を有すること,及び液胞機能分子の細胞内輸送のための新規の輸送系を発達させていることが分かった.
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