研究概要 |
葉緑体-ピレノイドと核の立体構造と細胞内での位置関係を解析する手段として透過電顕の連続切片法が開発されているが,技術的な問題と時間的・人的な制約からより簡便な方法の開発が望まれていた。今回は蛍光落射微分干渉顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡を駆使し,核の蛍光染色としてDAPIとサイバーグリーンを施した光学切片法を試みた。その結果は実績報告書にまとめたが,総じてこの方法は有効であるとの認識を得た。核は上述のように蛍光染色法が確立しているので問題はなく、また葉緑体も自家蛍光で充分解析に耐えられたが、ピレノイドはまったく解析できなかった。この構造に対する蛍光染色法がまったく開発されていないことが主因であるので、今後ピレノイドの2次抗体蛍光染色法を開発しなければならない。 細胞内共生直後には宿主細胞内のオルガネラの構造及び配置が攪乱されること、共生体が宿主細胞のオルガネラとして機能するよう1細胞へ漸進的に統合されること、それらの過程のいろいろな段階があり、それらが高次分類群内の細胞内に見られる多様化に反映していることを想定して構造的解析を進めた。高次分類群として単細胞紅藻を用いたが,この藻群は1次共生生物のため細胞内構造が単純で、外形がほぼ球形、鞭毛がなく細胞に極性が無いという利点がある。当初の作業仮説に適合した種類の検出と実証は充分とはいえないが完了した。しかし,同時に解析を進めた単細胞紅藻の18SrDNAとpsbA遺伝子による分子系統解析の結果は部分的には作業仮説も構造解析の結果も支持するが、各系統群内に見られる一連の構造変化傾向(クライン)の方向性は支持されなかった。今後両結果の擦り合わせをより詳細に行う予定である。 以上の結果の一部はすでに国内外の学会で発表するとともに学会誌・著書にも公表した。従って、本研究課題はピレノイドの蛍光染色法の開発と構造解析と分子系統解析の結果の食い違いをどのように考え、修正していくかを残し、当初掲げた目的を達したと自己評価する。
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