研究概要 |
今年度はニジマスの卵巣からの20β-HSDのcDNAクローニングを重点的に行った。すでに我々がクローニングしているアユの20β-HSDをプローブとしてニジマス卵濾胞組織のcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、2種類のニジマス20β-HSDcDNAを得た。これらの一つのcDNA(I型20β-HSD)を哺乳類の細胞にトランスフェクトし、発現された蛋白質と17α-ヒドロキシプロゲステロンとともにインキュベートすると17α,20β-DPが生成された。しかし、同様なことをII型20β-HSDcDNAを用いて行うと17α,20β-DPは生成されなかった。これらの二種類のcDNAがコードする蛋白質は3個のアミノ酸が異なるのみで、他は全て同じである。II型20β-HSDではNADPH結合領域のIle15がThrに置換されていた。そこでI型20β-HSDのIle15をThrに変えると20β-HSD酵素活性は消失し、一方,II型20β-HSDのThr15をIleに変換すると17α-ヒドロキシプロゲステロンを17α,20β-DPに転換する活性を示すようになった。さらに、これらの二種のcDNAに特異的な塩基配列をプローブとしてニジマス卵胞の莢膜細胞と顆粒膜細胞をテンプレートとしてRT-PCRを行うと、莢膜細胞と顆粒膜細胞のいずれにも両方の20β-HSD mRNAが発現していた。しかし、卵黄形成期と卵成熟期の卵胞を比較すると、I型20β-HSDは卵成熟期の顆粒膜細胞での発現が顕著に増加した。しかし、莢膜細胞での発現は変わらなかった。一方、II型20β-HSDは二つの時期で変化は示さなかった。また、卵黄形成後期の顆粒膜細胞を分離し、生殖腺刺激ホルモンとともに24時間培養するとI型20β-HSD mRNAの発現が著しく上昇した。したがって、成熟期の顆粒膜細胞におけるI型20β-HSDmRNAの増加は卵成熟期に起こる生殖腺刺激ホルモンのサージによってもたらされるものと推察される。
|