今年度は先ず、昨年度までにニジマスの卵巣から得られた20β一ステロイド水酸基脱水素酵素(20β一HSD)の2種類のcDNA(I型20β-HSD、II型20β-HSD)について、それぞれの遺伝子の5'上流領域の塩基配列を決定した。I型20β-HSD遺伝子の上流にはCRE及びAd4配列が存在するが、II型にはその様な配列は認められなかった。これら二配列の転写活性に及ぼす影響を哺乳類の培養細胞(4B2細胞)を用いたゲルシフトアッセイで解析した結果、CREが転写活性に重要であることが明らかになった。これらのことから、ニジマス卵成熟期の卵胞顆粒膜細胞における生殖腺刺激ホルモン(LH)による20β-HSD遺伝子の発現促進は顆粒膜細胞におけるcAMP量によって主として調節されていると推察される。今年度はまた、ティラピアの卵巣からの20β-HSDcDNAのクローニングも試み、すでにその断片を得ることができた。今後はこのcDNAをもとに全長cDNAを単離し、それを用いて生殖腺刺激ホルモンによる20β-HSD遺伝子の発現調節機構をさらに詳細に調べる予定である。 本研究ではさらに、卵巣と精巣における生殖腺刺激ホルモン(FSHとLH)による配偶子成熟誘起ホルモンの作用機構を解析する目的で、サケ科魚類(ニジマス、アマゴ)とティラピア卵巣のcDNAライブラリーからFSH受容体とLH受容体のcDNAをクローニングすることに成功した。ノーザンブロット解析から、FSH受容体は精巣では精子形成期に、卵巣では卵黄形成期に、一方LH受容体は精巣と卵巣のいずれにも成熟期に非常に強い発現を示した。これらの結果は、FSHは配偶子の成長に、LHが配偶子の成熟に重要な役割を果たしていることを示している。今後は、これらの2種類の生殖腺刺激ホルモン受容体遺伝子の発現が如何なる要因により調節されるかについて詳しく解析する必要がある。その際、特に性ホルモン(エストロゲン、アンドロゲン、17α20β-ジヒドロキ-4-プレグネン-3-オン)との関わりが重要となろう。
|