昆虫視覚系における色情報処理の細胞機構

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10440250
• 研究機関: 横浜市立大学
• 研究代表者: 蟻川 謙太郎 横浜市立大学, 理学部, 助教授 (20167232)
• キーワード: チョウ / アゲハ / 複眼 / 網膜 / 色受容細胞 / 色覚 / 色の恒常性 / 視物質

研究概要

本研究2年目の今年度は、以下の3点について研究を行なった。
(1)求蜜行動中のアゲハに色覚があることは、昨年度証明した。今年度は実験室内の照明光に色フィルターをかけ、異なる波長分布の照明の下がアゲハ色覚に及ぼす影響を調べた。その結果、アゲハは照明光の色が変わっても、その色が極端に濃いものでない限り、学習した色を正確に識別すること、すなわち「色の恒常性」があることがわかった。
(2)アゲハ網膜で短波長吸収視細胞に含まれる視物資cDNA2種をクローニングした。分子系統解析の結果、この2種はそれぞれ紫外線吸収型と青吸収型の視物資である可能性が示唆された。またこの遺伝子を発現する視細胞をin situ hybridization法で決定した。その結果、これらは個眼の遠位層視細胞のうちR1とR2に発現することが分った。発現パターンには個眼によって3通りあり、R1とR2の双方が紫外受容型、双方が青受容型、紫外と青がコンビに発現する場合があった。双方に紫外受容型視物質を発現する個眼は、紫外線下で蛍光を発する個眼と一致しており、この個眼のR1とR2が紫外受容型視物質を含んだ紫受容細胞であるという予測に物質レベルでの支持を与えた。
(3)アゲハで見られた個眼多様性とランダム分布が他のチョウ類にも一般的に見られる性質であるかどうかを調べるため、野外から約30種類のチョウ類をあつめ、同軸落射照明顕微鏡によって複眼のタペータム反射を観察した。その結果、観察したすべての種の個眼多様性とランダム分布が確認された。

研究成果

• [文献書誌] Arikawa K,Mizuno S,Scholten DGW,Kinoshita M,Seki T,Kitamoto J,Stavenga DG: "An ultraviolet absorbing pigment causes a narrow-band violet receptor and a single-peaked green receptor in the eye of the butterfly Papilio."Vision Research. 39. 1-8 (1999)
• [文献書誌] Kinoshita M,Shimada N,Arikawa K: "Colour vision of the foraging swallowtail butterfly Papilio xuthus."The Journal of Experimental Biology. 202. 95-102 (1999)
• [文献書誌] Arikawa K,Scholten DGS,Kinoshita M,Stavenga DG: "Tuning of photoreceptor spectral sensitivities by red and yellow pigments in the butterfly Papilio xuthus"Zoological Science. 16. 17-24 (1999)
• [文献書誌] Matsushita A,Arikawa K,Eguchi E: "Appearance of opsin-containing vesicles as rhabdomeral precursors and their incorporation into the rhabdom around dusk in the compound eye of the crab,Hemigrapsus sanguineus."Zoological Science. 16. 25-34 (1999)
• [文献書誌] Arikawa K: "Hindsight of butterflies."Bioscience.
• [文献書誌] 蟻川謙太郎: "無脊椎動物の光感覚.in生き物の見る世界(和田勝編)"学会出版センター(印刷中).
• [文献書誌] Arikawa K: "Color vision,in Atlas of sensory receptors of arthropods,Eguchi & Tominaga"Springer Verlag. 10 (1999)