研究概要 |
本年度は、これまでシダ植物に一度も適応されたことのない染色体のFISH法(直接染色体上での遺伝子の位置を可視化する蛍光in situ分子交雑法)を開発することを主に行った。まず、染色体数の少ない(2n=44)ゼンマイ属をターゲットにするため、ゼンマイ(Osmunda japonica)からrDNAプローブを作成した。このrDNAをプローブとして用い、様々な系統群のシダ植物に対してFISH法を試した。FISHを行うためのプレパラート作製には、通常の押し潰し法を用いることができないため、様々な酵素液の予備実験を行った。結局は通常の種子植物で行われるのと同様な4%Cellulaseと1%Pectolyaseの混合液による38度25分インキュベートが最良の結果が得られた。酵素液にマセロザイムを加えても良好の結果が得られた。また、酵素乖離後、固定液展開を行わずに押し潰しをすると染色体の拡がりを微妙に調整できたが、観察時にバックグランドが上がったので、今後改良を加える必要がある。その後のスライドの加温処理、RNase処理、分子雑種形成、シグナル検出は通常の種子植物の方法で可能であった。それらを予備的に数種のシダ植物に適用してみた。ゼンマイの根端では、rDNAのプローブに対し2個のシグナルが認められた。ゼンマイ属の染色体基本数はこれまで何度か議論され、現在の2n=44は、x=11由来の四倍体あるいはやはりx=22の二倍体であるとの2説があった。今回の結果からは、44本の染色体のうち2本にNORがあることになり、x=22であることを支持する結果となった。ゼンマイ属の他の種(オニゼンマイ、ヤマドリゼンマイ、ヤシャゼンマイ、シロヤマゼンマイ)はすでに採集済みで実験用に栽培管理しているので、春以降の染色体観察に適した時期にFISH法を適応する予定である。次に、種内倍数性が見られる種に適用した。コモチシダ(Woodwardia orientaris var.orientalis)は2n=136で、x=34の四倍体、すなわちハチジョウカグマ(var.formosana)2n=68からの同質倍数体あるいはハチジョウカグマと他の二倍体種との交雑に基づく異質倍数体と考えられていた。FISHの結果、コモチシダの根端細胞では大2個、小2個の計4個のシグナルが観察できた。これはコモチシダが四倍体性でしかも2対の異なったNORを持つ、すなわち異質倍数体であることを示している。コモチシダ属のx=34については、これまで二倍性か四倍性かを染色体対合やアロザイム多型から議論されてきたが、染色体の分子マーカーからもチェックができそうなので、今後2n=68をもつハチジョウカグマ、オオカグマ、ハイコモチシダについてもFISH法による検討を行う。また、基本数が多いヘゴ(Cyathea spinulosa,2n=138で、x=69)やその近縁種も採集済みなので、今後の実験材料とする。来年度はrDNA以外に分子マーカとしてPGIとSODの遺伝子を使う予定である。PGIについては、オシダ属(Dryopteris,x=41)、カナワラビ属(Arachniodes,x=41)の数種から遺伝子を得ているので、これらの属の二倍種に対してFISHを行う予定である。
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