本研究の目的は東南アジアを舞台としてマラリア抵抗性を示すと考えられる赤血球膜タンパク質の遺伝的変異を指標とし人類の遺伝的適応と小進化の証拠を得ることである。 (1)3日熱マラリア原虫のレセプターであり抵抗性と関連するダフィー血液型抗原に関しては、弱(無)反応性抗原の検索をタイ・インドネシアのマラリア常在地住民についておこない、Fy対立遺伝子の関与を否定した。 (2)熱帯熱マラリアに対する抵抗性と関係し卵形赤血球症を惹起するバンド3タンパクの変異遺伝子に関しては、その分布を分子スクリーニングにより解明しつつあり、また、抵抗性に関しては原虫種との関連を否定した。 (3)マラリア罹患率の高いネパールの少数民族ラウテで、3日熱マラリア原虫のレセプターであり抵抗性と関連するダフィー血液型抗原のスクリーニングをおこない、対立遺伝子頻度を求めたところ、アジア系の民族にしてはFyaの頻度がやや低い傾向が見られた。弱反応性抗原の存在を示唆する結果が得られたので検索を進めている。 (4)熱帯熱マラリアに対する抵抗性と関係し卵形赤血球症を惹起するバンド3タンパクの変異遺伝子に関しては、ニューギニア島住民のスクリーニングから、いわゆるオーストロネシア語族の人々の分布と重なることが示され、今後の調査方向を示した。 (5)マラリア抵抗性遺伝形質の1つと考えられるG6PD欠損症のスクリーニングをアジア・オセアニアの未調査集団でおこない、いくつかの高頻度欠損集団を同定した。
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