研究概要 |
本年度は現有の分子線エピタキシ装置と新規に購入した分子線源を用いて低温成長分子線エピタキシ(LT-MBE)法により(LT-)GaAs,強磁性半導体(Ga,Mn)Asおよび新しい希薄磁性半導体(Ga,Mn)Sbの成長を行い,反射高エネルギ電子線回折(RHEED)によるその場観察や原子間力顕微鏡、X線回折法などによる成長過程および成長層の評価を行った.さらに計算機シミュレーションによる成長の動的過程のモデル化を進めた.(Ga,Mn)Asについては成長条件に対する電気・磁気特性の依存性を系統的に調べた.本年度に得られた主な成果を以下に記す. 1. LT-MBEによるGaAs成長時にRHEED振動が低温(300℃以下)で復活し,振動の大きさは基板温度とV/III比に依存することを明らかにした.このRHEED振動の特異な振る舞いについて,成長中に表面に過剰供給されたAs原子が自己表面活性剤として働くモデルに基づいたモンテカルロシミュレーション計算を行った結果,実験で得られたRHEED振動の成長温度,V/III比依存性等を再現し,吸着したAs原子がGa原子の表面拡散を助長する可能性を示した. 2. Mn組成xが7.1%までの(Ga_<1-x>,Mn_x)AsをLT-MBE法により形成し,(Ga,Mn)As層の磁気・電気伝導特性を調べ,その成長温度や膜厚,バッファ層,およびV/III比など成長条件に対する依存性を調べた.その結果,バッファ層の格子定数を変えることにより強磁性転移温度は変化せず,歪の応力の方向が変わることにより磁化容易軸が変化することを示した.また成長温度が約210℃を境に高温側で金属的な伝導特性と強磁性の発現を,低温側では絶縁的で強磁性を示さないことを明らかにした. 3. 新しい希薄磁性半導体(Ga,Mn)SbのMBE成長を行い、MnSbの析出が少なくなる成長条件を明らかにしつつある。
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