現在、電子産業上解決すべき重要課題となっている次世代シリコン結晶中の微小欠陥を非破壊で高感度に検出する実用的な光学的手法を開発することを目的として行い、次の研究成果を得た。 1.シリコン単結晶中の結晶欠陥によって誘起されている微小な複屈折を測定するため、赤外レーザー、独自に開発した回転偏光子と回転検光子、電子冷却型赤外光検出器を組合わせて高感度な赤外光弾性装置を新たに構築した。また、検出器の暗電流の低減ならびに偏光子と検光子の消光比の向上のための信号処理アルゴリズムを開発した。これにより、正常光線と異常光線の位相差が極めて少ない場合にも高感度な測定が可能となった。 2.上記の高感度赤外光弾性装置を用いて、海外共同研究者がFZ法を用いて育成した無転位シリコン単結晶に関して測定を行った。光の伝播方向によって、例えば、<110>結晶方位と<100>結晶方位によって屈折率が微小に異なることを見出した。この光学異方性は、Lorentzが理論的に予測していたもので、光が結晶中を伝播するときに生じる局所電場が光の伝播方向によって異なることによるものであると理解でき、2階のテンソルである誘電率の高次項である4階のテンソルで表現できることが明らかとなった。 3.無転位シリコン単結晶は、上記の光学異方性を示すだけではなく、結晶中に分布している点欠陥に伴う歪みによる微小な複屈折が存在することを見出した。その定量化には、結晶そのものが持つ光学異方性を分離する何らかの工夫が必要であるが、新規に構築した高感度赤外光弾性装置は、点欠陥などの極微の結晶欠陥を評価するのにも有用であることを示した。 4.大口径シリコン基板やSOI基板、さらには、無転位シリコン単結晶において行った赤外光弾性評価に関して、その実用化について検討した。
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