研究概要 |
材料表面の厚さ、広がりともナノメートルスケールの微小部分の機械的性質(ナノメカニカル物性)はシリコンウエハの加工法における加工変質層、ナノマシン用材料などの先端的工学の分野で大きな問題となり、その迅速で正確な評価法の確立が急務である。本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーを共振モードで振動させ、慣性とノード形成によるレバー長の実効的減少効果によりレバー剛性を向上させる超音波原子間力顕微鏡(超音波AFM)の高度化と適用研究を行った。 1)共振周波数およびQ値測定システムに基づく制御ソフトウエアを開発し,炭素繊維強化樹脂(CFRP)の断面を解析した結果,繊維は均一でなく中心は外周より柔らかいことを確認した。 2)表面下の欠陥の観察可能深さを検討するため,表面下に欠陥を模擬する低弾性率層をもつモデルに軸対称球を押し込んだ有限要素解析とカンチレバーの振動方程式から,10nm程度までの欠陥は通常の探針を用いる超音波AFMで検出可能であることがわかった。 3)グラファイト単結晶は,炭素6員環が2次元的に広がったシートが積層されたもので,層間のすべりやすさから固体潤滑材に,また層間への他種原子の侵入しやすさから黒鉛層間化合物としてLi電池電極材料等に使用されている。しかし,層がすべる距離の限界や耐久性などは解明されていない。超音波AFMによる表面下の刃状転位の観察を行った結果,探針の荷重が100nN〜400nNまで変化すると転位は横方向にC-C結合距離の330倍に及ぶ47nmも移動し,除荷するともとの位置に戻った。この移動方向は探針の走査方向の影響を受けず,常に余剰原子面を圧縮する方向であった。256回の移動後も状態は変わらなかったことから,シートは滑りやすく耐久性も高いことが判明した。
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