研究概要 |
材料表面の厚さ、広がりともナノメートルスケールの微小部分の機械的性質(ナノメカニカル物性)はシリコンウエハの加工法における加工変質層、ナノマシン用材料などの先端的工学の分野で大きな問題となり、その迅速で正確な評価法の確立が急務である。本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーを共振モードで振動させ、慣性とノード形成によるレバー長の実効的減少効果によりレバー剛性を向上させる超音波原子間力顕微鏡(超音波AFM)の高度化と適用研究を行った。成果は以下の通りである。 接触弾性(試料・探針の接触によるバネ定数)の荷重依存性をSneddonの弾性接触理論を用いて計算し、超音波AFMの周波数方程式による共振周波数の計算結果と弾性率既知試料の実測結果との誤差を最小化することにより探針形状を決定し、これを用いて未知試料の実効弾性を推定する逆問題解析法を開発し,定量計測を実現した。 ついでこれを応用して,PACE(Plasma Assisted Chemical etcing)法により加工したシリコンウエハの加工変質層の弾性特性を評価した結果、鏡面研磨したシリコンより接触弾性が低下しており、共振周波数の荷重依存性が、深さ方向に弾性率が変化する有限要素モデルにより説明できた。 より微小な欠陥として表面下の格子欠陥を解析した。グラファイト単結晶は,炭素6員環が2次元的に広がったシートが積層されたもので,層間のすべりやすさから固体潤滑材に,また層間への他種原子の侵入しやすさから黒鉛層間化合物としてLi電池電極材料等に使用されている。超音波AFMによる表面下の刃状転位の観察を行った結果,探針の荷重が100nN〜400nNまで変化すると転位は横方向にC-C結合距離の330倍に及ぶ47nmも移動し,除荷するともとの位置に戻った。この移動方向は探針の走査方向の影響を受けず,常に余剰原子面を圧縮する方向であった。これは今まで報告のない転位の運動様式なので,弾性変形による上昇と呼ぶことを提起した。
|